子カバ事件簿


 
ファイルNo1
1986年、○月○日。
お隣りの奥さんが訊ねてきた。
「あのぅ、うちの庭先で大事に育てていたチューリップなんですけど、先日やっと蕾をつけて開花を楽しみにしていたんですけどね、 そのチューリップが首のとこから折られちゃったんです・・」と。
その話の続きは言われなくてもすぐに判った私は、ひたすら平謝りして、後程お茶菓子もって再度謝罪しに行った。犯人はうちの子カバ、長女(1歳半)である。

子カバは花を折ってる所を奥さんに目撃されて、“ダメよ”と注意を受けたにもかかわらず、ニヘラぁ〜と笑ってスタスタ帰ったのである。 私は現場検証ならぬ、長女を現場に連れて行き、花を持たせてその手をパチンと叩いて“折っちゃダメよ”と教えた。 しかし、子カバは次の日も私の目を盗んで隣りの庭に入り、またしても花を首から折った。 しかも今度は全部残らず折ったのだった。 それを知った私はしばらく呆然としながらも、現場に長女を引き連れて思いっきり叩いた。 しかし1歳半には訳が全然わかってない。
言葉がわからない1歳半に対して、イライラが募り、この時期私は少し育児ノイローゼ気味だった。

ファイルNo2
1987年、○月○日。
子カバ長女(2歳)が風邪をひいた。 元気にしているものの、熱を計ったら39度近くもあった。すぐに病院に連れて行き、薬をもらって帰宅。薬は甘い粉薬だった。

しかし、子カバは薬を嫌がって飲んでくれない。
こっちも意地になって、無理矢理口に入れ込むが、べぇ〜っと吐き出しやがる。このクソったれが!と思いつつ、 少し考えた私は、柔らかいキャラメルの中に粉薬を詰め込んだ。薬1袋に対してキャラメルは5個。 これなら分らずに食べてくれるだろうという期待も空しく、子カバは、キャラメルを舐めて薬が中から染み出てくると、 また、べぇ〜っと吐き出した。

キャラメルが駄目ならチョコレートがあるさ、と私はチョコを湯煎で溶かし、薬を混ぜた。 そして固まったチョコを子カバの口元に持っていくと、察知したかの如く、口も開けず見向きもしないのだった。 このカンの鋭いクソったれが!と思いつつ、ジュースに溶かしたり、カレーに混ぜたりしたが、 子カバはガンとして薬を受け付けなかった。

私がそんな悪戦苦闘をしていると、3日目あたりで子カバは自力で風邪を治した。
ちなみに、長女だけは3歳まで薬を飲んだ事はない。

ファイルNo3
1990年、○月○日。
二女(2歳)の指しゃぶりは、少し風変わりだった。
私の髪を少しだけつまみ、それを自分の鼻の所に持ってきて香いを嗅ぎながら指しゃぶりをするのである。 ちなみに長女は指しゃぶりは一切なかった。

二女は指しゃぶりしていれば、自然と自分で寝るし、おとなしくしていて泣かないので、私はそれを良い事に、 指しゃぶりをやめさせる気はなかった。 するとある日、しゃぶってる親指の先にタコが出来ていた。 しかし、それでも二女はしゃぶり続けていたが、だんだん痛くなってきたのか、泣いて止まなくなった。

次の日、医者に連れていった。
医者は、二女の親指を見るなり、「切りましょう、お母さん、お子さんが見ない様にしてください」 と、言われたので、私は二女の顔を手で覆った。 すると、二女は私の手を払いのけて、医者に掴まれた親指を凝視した。何度覆っても二女は払いのける。医者は笑いながら 「じゃ、ちょっと我慢してねぇ〜」と言ってメスを入れた。見てる私の方が痛かったが、二女は泣かずに凝視したままだった。

ほんの2分程で処置され、親指は手厚く包帯が巻かれた。二女は、グルグル巻きの親指を凝視したままだった。 指しゃぶりが出来なくなって、しばらくウルサイのかなぁ〜と思っていたが、 この日を境に二女は、指しゃぶりがパタッと止み、不思議な事に全然泣きもしなかった。
私はちょっとキツネにつままれた気分だった。