怪我

2001年4月29日、ゴールデン・ウィーク初日の夕方の事でした。
夕食の下準備を済ませて、流しに置いてあったいくつかの洗い物をかたづけようと、 スポンジに洗剤を含ませて洗いはじめました。

洗い物の最後に手にとった食器は、コップ。
いつだったか、景品でもらった長靴型のコップ。
小さくて可愛いデザインだけど、手にしただけでかなり薄いガラスだと言う事が ハッキリ判るほどチャチなコップ。そのコップの底の方の汚れが中々とれなくて、スポンジを押し込んでから ゴシゴシと力を入れて強く洗っていた。

ゴシゴシゴシゴシゴシゴシ    パキッ!  ゴシゴッ   “!?”
その瞬間、自分の右手の指に持ってるモノが割れたコップの欠片だと見て確認したが、 右手の甲に感じた部分は咄嗟に左手で覆って視線を向けなかった。

"もしかしたら切れたかもしんない・・・"
不思議とそんなに痛いという感覚がない

"多分切れたかもしんない・・・"
左手で覆ったまま、それが確認出来ない

"もしか切れてたら血が出てるはず・・・"
左手で覆ったまま、おそるおそる視線を右手の指先に向けると、 指の先っぽから絶え間なく血が流れていた

"げっ!やっぱ切れてるぅぅぅぅぅ"

私は左手で右手の甲を覆ったまま、血を止めようとティッシュ箱を目で探した。
2メートル程後方にあるテーブルの上にそれを見つけたが、左手で強く覆っているにもかかわらず 血がボトボト垂れていて、たった2メートルなのに流しからそこまで移動出来ない。
隣りの部屋で呑気にテレビを見ている子カバの名前を呼んでみる。が、返事がない。 テレビの音声に私の声はかき消された様子。動揺していて大きな声が出ない。 仕方なく、深呼吸してからもう一度叫んだ。
「誰か〜、ティッシュとって〜!」
隣りの部屋から出てきたのは旦那だった。
「ごめん、手を切ったみたい、ティッシュとって」と言うと、 「あ〜あ」と面倒くさそうにティッシュ箱から2枚ほど引っ張り出してきてくれた。
私は覆ってた左手をあげた。でもこの時私の視線は旦那の顔に向いていて、 自分の傷口を見る勇気はまったくなかった。

次の瞬間、旦那の驚く表情を捉えた。
「ぁあ〜〜っっ!こりゃ縫わなきゃだめだよ!」
旦那の言葉に自分も驚いた。
「えっ?・・・うそっ!そんなに切れてるの?・・」
それを聞いて、益々自分で自分の傷口を見る事ができなくなってしまった。

最初2枚ほどだったティッシュは4枚、6枚・・と次々に増えていくものの、どんどん血で染まっていき、 それでも滴る血を見て、私は気分が悪くなった。 その内、立っていられなくなり、キッチンの前にうずくまる私の異常な状態を長女が察知して タオルを持ってきてくれた。そのタオルで右手首を縛って、エプロン姿のまま私は救急病院に行った。

夕方6時過ぎの病院の受付けには数人の救急患者がいた。
待つ事10分くらい、名前を呼ばれて診察室に入った。 がしかし、看護婦さんはとても忙しそうにしていて、診察室にドクターは居らず、 看護婦さんが決まり文句みたいに「そこでちょっと待っててくださいね」と言ってまた走り去っていった。
待つ事10分くらい、今度はのっそりした足取りでドクターが入ってきた。
「ハイ、どうしましたぁ?」と、口調ものっそりしてる。
私が怪我の経緯を話すと、何やらカルテに記して、もはや束になってるティッシュを掴んで、 傷口を見たと思ったら、すぐティッシュを元に戻して看護婦に「すぐ整形の先生呼んで」と言った。 私はその(ドクターがティッシュを外した)時、自分の傷口を初めて目にした。ギョッとした。 ドクターが「かなり深く切ってますね」と言った言葉に、声が出なくて、ただただ強く頷いた。

カルテにまたいろいろ記しながらドクターが言う。
「歯医者の麻酔とかで気分が悪くなった事とかないですね?」と。
「はい・・」と応えたあとで気が付いた。私はこれまで一度も歯医者で麻酔など受けた事がない事に。 でも高校の時に盲腸の手術してるし、なによりも、そのドクターの質問が自分には 「これから縫いますよ、覚悟はいいですね?」という風に受取れた。

ドクターがカルテを書き終えると同時に看護婦さんに指示されて別の部屋に移動した。 そこは処置室と呼ぶべきかな?とても無情な室内だった。
ベッドに寝かされて右手を小さなテーブルの上に置き、丸ライトが円形状に たくさん付いてる小型の移動式ライトがそこに照らされた。

整形外科の若いドクターが入ってきた。なんとなくそのドクターの雰囲気は、今までテレビでも 見ながら食事してましたって感じがした。
「だいぶ深く切っちゃったねぇ〜、じゃぁ縫いますからねぇ〜」・・・なんか楽しそうに聞こえた。

麻酔の注射は5ヶ所くらい打ったのか、手の甲に数箇所の鋭い痛みが走った。 と同時に何度も血を拭ってる感触がだんだんボヤけてきた。
どのくらい経ったのかな?右手に痛みの感覚はなかったけど、皮膚が引っ張られてる感じがした。 それに、手厚く巻かれた包帯とは裏腹に、所々に血のりがまだ付いていて、手の内側や指先、 爪の中まで血が滲んでいた。
その後、注射と点滴を受けて帰宅。8時を過ぎていた。

さて、今現在まだ抜糸してないからだと思うけど、何かモノを強く掴む時に力が入らない。 なので、そんな右手を庇って左手をよく使うのだけど、左手の力が弱くて子カバたちに頼る事が多い。
先日、そんな私に子カバたちが言った。
「私ね、こないだの体力測定で握力は右が26、左は22だったよ」と二女。
「私なんて中学ん時、右が32、左は28だったよ」と長女。
・・“ふ、二人とも、つ、強ぇ〜じゃねーか!”
ちなみに私が高校ん時に測定した握力は、右が22。左は16だった。(--
子カバたちよ、これからもカヨワイ左手に、協力ヨロシクなっ!

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