2001年、叔母との旅

D-18 11月の初め、とある事情が出来て私一人で九州に行く事になりました。
そこで九州に滞在中、福岡に住む叔母(母の妹)と二人で、母と姉のお墓参りに1泊2日の予定で出かけました。 叔母は66歳。小柄な体型だけど元気で頭の回転がとても早い人です。でもオッチョコチョイなところがあります。 そういう私もオッチョコチョイです。そんな二人なので、珍道中となりました。
*(福岡弁には解説付けてます)

11月2日午後、羽田空港を定刻に出発。
機内サービスのお茶を飲みながらのんびりしてたら、前席に座ってた5〜6歳くらいの女の子が急にカン高い声で言いました、 「ママ〜!この飛行機、ビルにぶつかって爆発しないよね〜?」と。
お茶を持ったまま一瞬動作が止まった私。(いきなり、こぇ〜こと言うなよ〜)

夕方6時前、“無事に”福岡空港に到着。
その日私はひとつ用事を済ませてから叔母の家に向かいました。
叔母の家に着くと、一息吐く間もなく、明日からの二人旅の準備が始まりました・・・

叔母「ねぇ、明日これば着ていこうかなて思うとーとやけど・・おかしか〜?」
*(明日私はこれを着ていこうかなと思ってるんだけど、似合うかしら?)
私「別に変じゃないけど、向こうは寒いと思うよ。だから私はコレ!これいいでしょ?」
叔母「アラ〜よかじゃんね〜。んなら私こっちしょーか、どげん〜?これカワイかろ〜?」
*(あら、それ似合うわよ。じゃぁ私はこっちにするわ、どう?カワイイでしょ?)
・・・という会話と共に、二人のファッション・ショーが始まりまして、たった1泊2日なのに、その準備(主に服とそれに似合うアクセサリー)に かなり時間をかけてしまいました。
でもこれが旅行に行く時の女性の楽しみの1つでもあるのよネ。

翌朝、天気は小雨。
自分のショルダー・バックと二人分の荷物を詰めたボストン・バックを持つ私。(←かなり重たい)
自分の手提げバッグだけを持つ叔母。(←かなり軽い)
で、準備OK。家の中を指差し確認してから朝7時半に出発した。

8時、バス・センターに着いた。
目的地までの乗車券を自動券売機で買おうと、私は二人分のお金を入れて「2枚」のボタンを押した。 そして隣にいた叔母がその乗車券をとった。それからバスの乗車口に並んだ。 バスが来るまでまだ20分ほどあったので、叔母はトイレに行った。その時、私は何気に自分の乗車券を探した・・・ が、ポケットに入ってない!
。。そっか、叔母が2枚持ってるんだ。。と思い、トイレから帰ってきた叔母に、「私の切符、頂戴」と言うと、 叔母が、「はぁ?私は一枚しかもっとらんよ。ホラ〜、ね?1枚しかとっとらんもん!」 *(私は1枚しか持っていないわよ、だって1枚しか取ってないから)
「えー!じゃあ私の乗車券は?」と慌ててバックから服のあらゆるポッケを探す、が、無い!
すぐに案内所に行って事情を話すと、「券は2枚一緒に出てくるはずですけど・・」と言う。 しかし、叔母は持ってる券を見せながら、一枚しか出てきていないと言う。 私は確かに二人分のボタンを押したし金額も二人分だった・・。そうこうしてる内にバスがきた。 私がどうしようと悩んでる横から叔母は非情にもさっさと一人でバスに乗り込んで行く。 それ見て私は仕方なく急いでもう一枚乗車券を買ってきてバスに乗った。

バスの中で私は、お金損したな〜と悔やみ、叔母は、「おかしかねぇ〜絶対おかしかよ〜あの券売機!」*(あの券売機は壊れてる!)と 機械を疑っていた。しかし、目的地近くになった頃になって叔母が突然、「あっ!」と声をあげた。驚いて叔母の方を見ると、その手には2枚の乗車券が!
え゛っ!?・・・
「あら!ごめ〜ん、そばってんこげ〜んピッチリくっついとるもんやけん・・・ほら!こげんくっついとったらわからんでしょーが〜」 *(ごめん。だけど券がこんなにピッタリくっついてたらわかるはずないわよ)と、券を何度も2枚合わせながら必死で言う叔母に、 私は「いいよ、いいよ・・・着いたら、そこで払い戻ししてもらうから」とため息まじりに言った。 でも、着いた先の窓口にいったら、払い戻しの手数料で100円も取られた・・・・ちくしょ〜っ(--
教訓その1、二人旅、相手を頼るべからず。

お昼、予約していたホテルに荷物を預けて私はまたそこで用事があったので叔母とは別行動をとった。叔母は市内観光に出かけた。
その日の夜、叔母と一緒に食事に出かけたが、私が食べたかったとんこつラーメン屋さんは却下された。
叔母曰く、「よか服ば着てきと〜とにラーメン屋やらいかんよ〜」
*(オシャレな服を着てきてるんだからラーメン屋なんて行きたくない)
教訓その2、二人旅、相手(しかも年配者)の意見に従う余裕を持つべし。

翌日、天気は晴れ。叔母の身支度に時間がかかる。(別部屋だったのでロビーで待っていた)
その日の予定は、母のお墓参り→姉のお墓参り(既に各電車の切符を予約購入済)そしてその後、福岡に帰る段取りでした。
その予定してる電車の発車時刻に少々追われながらホテルを出た。

駅に着いて、ホームで電車を待っているとアナウンスが流れてきた・・・
「先ほど、○○線の○○駅付近で信号故障が発生致しました、現在復旧の目途はついておらず、お客様には大変ご迷惑を・・」
・・・ぇっ?ちょっと!○○線って、私達が乗る電車じゃん!どーする?・・・と叔母に言ったところで始まらない、 すぐに私は駅員に、「どのくらい遅れるんですか?・・既に○○駅からの乗り継ぎの切符も購入してしまってるんですけど」と言うと、 駅員はあっさりと、「あ〜それは無理ですね、今のところ復旧の目途はついてませんし」と言った。

仕方なく叔母と私はまた改札口に引き返して、今後の予定の変更を練った。
姉の方はお寺に法要をお願いしてあったので時間の変更は出来ない。予定通りに法要が終わってから 母のお墓がある所まで移動するとなると時間的に、その日に福岡に戻るのはキツイ。
母の方は諦めるか・・・でもせっかく九州まで来たんだし・・・ヨシッ!こうなったら明日以降の予定は繰り越して、 母の墓地に近い所でもう一泊しよう!と決めた、それに叔母も賛成してくれた。
早速、駅の観光案内所で宿泊地図をもらい、公衆電話で母の墓地がある地方の宿泊所に直接電話してみた。 その日は日曜日という事も手伝って、すんなりと予約できた。

さて、これで予定は決まった。
それからしばらくしてから私と叔母は姉のとこに向かう電車に乗った。
天気も良く、窓から差し込む陽射しは少々暑いくらいだった。そしたら30分ほどして叔母が言いだした。
「ぁぁ〜このズボンは暑か〜、後ろん席に誰もおらんけん、そこでちょっと昨日の薄かつと替えるね!」 *(このズボンは暑い!後ろの席には誰も居ないから、そこで昨日履いてた薄い生地のズボンと履きかえるわ)と。
「ちょ、ちょっと待って!頼むからココではやめて!履きかえるならトイレにして!ねっ」と言って私が荷物棚からバックをおろしてあげたら、 叔母がガサゴソとバックの中を探り始め、だんだんとその手付きが荒々しくなってきた。「どうしたの?」と聞くと、 「なか!なかよ〜ズボンが入っとらんっ!ホテルに忘れてきたとやろか〜?なか〜・・・忘れてきたとよ」 *(ない!ズボンが入ってない!ホテルに忘れてきたかもしれない・・ないもん・・忘れてきたんだわ)
。。。(--;;;;;;;
私は電車内のテレフォン・ボックスを探し、すぐに宿泊したホテルに電話をかけた。 「これから部屋を確認します」という返事をもらって、後日またこちらから電話いれる事にして席に戻った。
教訓その3、二人旅、相手(しかも年配者)の持ち物をチェックしてあげる余裕も持つべし。

午後0時すぎ、目的地に到着。
駅にはお義兄さんと姪が迎えにきてくれていた。姪は亡き姉にそ〜っくりになっていた。
私は「あら〜、○○ちゃん、大きくなったねぇ〜」と、まるで爺さん婆さんの口調になってしまっていたが、 笑顔を浮かべながら実際は涙をこらえるのに必死だった。あまりにも姪が姉に似ていたからだ。 笑顔で「こんにちは〜」という姪の声まで姉にそっくりで、私は、いかん!涙を見せたらイカン!泣いたらイカーン!と内心、弱い自分との戦いに必死だった。
それでも込み上げてくる涙・・・私はそれを紛らわせる為に姪から少し離れて、タバコに火を点けた。

皆で昼食をとったあと、姉のお墓参りをしてお寺でお経をあげてもらった。
お寺を出た時、お昼3時近くになっていて、これから母のお墓に向かうと言う私と叔母に、なんとお義兄さんが親切にも 「今夜泊まる所まで車で送っていきますよ」と言ってくれた。姪も一緒に来てくれると言う! でも、かなり遠方だ。お義兄さんは明日仕事で姪は学校・・・、悪いなぁと思いつつも、姪ともう少し過ごしていたいという気持ちは強く、お義兄さんの好意に 甘える事にした。

午後3時過ぎ、車で出発した。
夕日が沈みかける頃、だんだん目的地が近くなってきたが、晴天の日曜日だし目的地は地方でも有名な観光地という事もあって、 反対車線は凄い渋滞していた。
私は、お義兄さんと姪の帰路が心配になってきた。
「うわ〜、こりゃ〜今夜中に帰るのは無理かも・・」とお義兄さんが言う。 反対車線の渋滞は数十キロに及んでいた。そしてお義兄さんが続けて言った、「同じ宿泊所が空いてたら僕達も今夜はそこ泊まって、明日早朝に帰りますよ」と。
私はそれを聞いて、申し訳ないな〜と、ちょっと動揺してしまったけど、やっぱり心のどこかで姪と一緒に温泉に入れる♪という嬉しい気持ちで一杯になっていた。

午後6時頃、宿泊所に到着。日が沈み、辺りは真っ暗だった。
幸運にも部屋はまだ空いていて、それからまた皆で夕食をとった。そして叔母と姪と3人で温泉にも入った。それにその後、 宿泊所にあるカラオケも皆で楽しんだ。
予定外の展開になったけれど、姪と楽しい思い出が出来て私はすごく嬉しかったし、叔母も喜んでいた。

次の日の朝、雲は多かったけど朝陽が射していた。
私と叔母はそこから母のお墓に向かい、墓前で静かに手を合わせた。時折どこからか聞こえてくる鳥の鳴き声が心地よかった。

それからゆっくり福岡に帰ろうと言う事で、叔母と観光してまわった。 その時に見つけた無人販売所で叔母が、「うわぁ、これ前から欲しかったとよ〜これちょっとシャレとろ〜?・・あっ!このつけもんも美味しいちゃんね!」 (*これ、前から欲しかったのよ、おしゃれな感じするでしょう?それにこの漬物も美味しいんだよね)と言って、珍しい飾りと漬物を買った。
しかしその漬物はかなりニオった!・・とってもくさいの。 なので、私は、「これバックに入れたら衣類にニオイがつきそうだし軽いからさぁ、叔母ちゃんが手に持っててよ」と頼んだ。
そして午後2時すぎ、帰りの電車に乗り込んだ。

約1時間半ほどして、その電車の終点で乗り換え。
乗り継ぎ電車の時間までは10分程。そのホームまではちょっと離れていて階段もたくさんあった。
叔母は私の前を身軽にサッサと歩く、しかし私は(何故か重さが出かける時の倍になってる)ボストン・バックを持ってる為歩くのが遅かった。 そんな私を叔母が時々振り返りながら、「はよ、はよ〜」(*早くおいでよ)と急かす。・・・荷物重いんだってば!

しかし、急かしたわりに電車は中々ホームにはいってこなかった。
叔母は気を使ったのか、「疲れたやろ?あっちで一服してき〜」と言った。私は一服しながら、もう一つ向こうのホームにある電光掲示板をボンヤリ見ていた。
。。あれ?あっちも博多行きの電車なんだぁ〜・・20分後かぁ。。
そうこうしてる内にホームにはたくさん人が列を成してきた。そして定刻ギリギリに電車が入ってきた。 外から見た限り、空席は見当たらなかったが、それでも先に乗った叔母がすばやく空席を見つけてくれた。 そしていざ席に座ろうとしたところで、叔母が言った。
「あっ!忘れた!つけもん」(*漬物を忘れた)
・・・・←言葉なし!

その一瞬の沈黙の後、私はすぐに、「降りよう!」と言い、それに対して叔母もすぐ、「うん!」と言った、と同時にまだ乗ってくる乗客をかき分けて 電車を降りた。叔母が降りてすぐドアが閉まり、電車はゆっくりと動き出した。 その時思った、私が降りよう!と言った時に、もし叔母が躊躇していたら、もし降りる動作が遅かったら、間に合わなかっただろうなと。

「20分後に博多行きがあるから、それに乗ればいいし、さっき乗ってた電車は終点だったからまだ停車してると思うよ」と言う私に 叔母は「うん!アンタはゆっくり来ぃ!」(*わかった、アンタはゆっくり来ていいよ)と言って、もうすぐ66歳とは思えない軽快な足取りで階段をのぼっていった。 私もなんとかそれに追いつこうと走った。
幸い、さっきの電車はまだ停車していて、外からその漬物が入ってる袋も確認できた、が、ドアがロックされていて中に入れない。 叔母はまたそこから走って車掌を呼びに行った。私はそこで待っていて、叔母のその走る後ろ姿を見ていて思った。
私も気をつけてなきゃいけなかったのに・・・。しかし・・叔母ちゃんの走り方って、可愛い〜♪

そしてその20分後、無事に漬物入りの袋を持って、私と叔母は博多行きの電車に乗り込んだ。 その電車は前の電車に比べて空席が多く、すぐに座れた。そして叔母は言った、
「エラいこの電車空いとるね〜、さっきのと全然違うた〜い、こりゃ姉ちゃん(母)がこっちに乗って帰えんしゃいてしてくれたとよ」 *(さっきの電車と違ってこの電車は空いててよかったネ、きっと姉(母)がこの電車に乗って帰りなさいって教えてくれたのよ)、と。
教訓その4、二人旅、物事は良い様に考えよう、何事も楽天家でいくべし!

こうして、叔母との珍道中は終わりましたが、この3日間はすご〜く疲れました、でも自分なりに教訓も得たし、 それなりに充実してた様な気がします。しかしその後の繰り越した予定が全部バタバタしてしまって、結局、楽しみにしていたとんこつラーメン は食べられませんでした。

でも、九州滞在最後の日、そろそろ福岡空港に向かわないといけない時間になってから叔母が、 「荷物になるばってんがくさ、*(荷物になって悪いけど)これとこれと、これも持っていきんしゃい!あと、これも飛行機ん中で食べんしゃい!」と言って、 わかめともずくとめんたいこと魚の干物を持たせてくれて、栗ご飯で作ったおにぎりまで作ってくれました。
私はこの時、「もぅ、そんなに一杯・・荷物重たくなるじゃーん、いいよ〜」と返事したのですが、 叔母は「ホラね〜そう言うじゃろと思とった、そばってん、よかた〜い!持っていきんしゃーい」と言って、とても嬉しそう。 そして私も、文句言いながらも、仕方ないなぁ〜という感じで、笑ってそれをバッグにしまうのです・・・
それは・・・、勿論私の実家ではないんだけれど、母によく似たたった一人の叔母との、この時のこの会話は、 “ぁぁ、郷里に帰ってきたんだ〜”って強く感じさせてくれるし、いつまでも失いたくない温かさなのです。

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