白いスケート靴

白いスケート靴 今から何年前になるのだろうか・・
私が小学生のころに母親に買ってもらったスケート靴です。
この季節になると毎年押し入れから出しては手入れをします。
スケート靴の後ろにあるのはスケート靴を入れるバッグなんです。
赤いバッグと白いスケート靴。
30年は軽く経ってしまってますが、まだ充分履けます。
でも、履いて滑ってると白い皮の表面がポロポロと落ちてきたりします。

白いスケート靴は当時、とても私の憧れでした。
昔も今も上手くは滑れませんが、とりあえず滑れる程度なんですが、
昔も今も、気分だけは、ジャネット・リンなんです!(^^;

小学校4年か5年生くらいだったかな、冬休み近くになって、クラスの一人の男の子Mくんが皆に向かって 「今度皆でスケートしに行かないかー、行く人この指と〜まれ!」と叫んだのでした。 Mくんはクラスでも一番元気が良くて、女子にも人気ものだったから、Mくんの指には男の子だけでなく女の子たちもたくさん集まりました。 その時私も、行きたい!と思ったのに、周りの女の子たちがMくんの指にサーッと集まったタイミングを外してしまい、 それがとても気恥ずかしくなってしまって、どうしようどうしようって思っていたら、Mくんが私の方を向いてくれて、 「オマエは行かないのかー?来いよなぁ〜」と言ってくれた事で、私は席を動かずに頷いて「うん、行く」と小さな声で言ったのでした。

その日からスケートに行く皆で休憩時間などに集まって、日にちを決めたり、何時から行くか決めたりしてました。 男の子たちは、オレはこうやって滑れる、それは滑れないという話が多く、女の子たちは何を着ていく、何を持っていくの話で盛り上がってました。 そんな中、Mくんが「おれはスケート靴もってるぞ、スピードスケートの靴だぞ」と言いました。そしたらもう一人の男の子も 「おれもスピードスケートの靴持ってる」と言い、二人の女の子もそれに続けて「私達もスケート靴持ってるよ〜、白いスケート靴だよね〜。」と言って 翌日わざわざその女の子たちはスケート靴を学校に持ってきて見せびらかしたのでした。

私はそれまで何度か親に連れられてスケートをした経験はあったけど、貸し靴の黒いのしか実際見たことなかったので、 その時に見た女の子たちの白いスケート靴がまるでダイヤみたいな宝石に感じました。私はそれがとっても羨ましくて、 その日家に帰ってからすぐに母親に強請り始めました。
「今度皆でスケートしに行くんだけど、スケート靴持ってないのは私だけだよ〜皆持ってるんだから〜」と、ウソばっかり言ったりなんかして、 「だめ!」という母親に食い下がり、何度言ったかわからない“一生のお願い!”を繰り返し、ねばりにねばってやっと、 「ったく、もぅしょーがないわねぇ」との返事をもらったのでした。

早速母親と一緒にデパートにスケート靴を買いに行きました。 売り場でワクワクしていたら、母親が「ずっと長く履けるように大きいサイズにしなさい」と言い、 その時私の足のサイズは18センチだったのに、なんと23センチのスケート靴を店員に頼み、 「厚い靴下を何枚も履けば大丈夫だから」と言って、23センチのスケート靴と、靴を大切にするようにと靴のバッグも一緒に買ってくれました。 私は念願叶って嬉しかったけど、23センチもあるデカいスケート靴に心中は少し複雑でした。
家に帰ってから、早速厚い靴下を3枚重ねて履いたけど、それでもスカスカで、母親にそれを言うと、 母親が布切れを巧い具合に靴の先に詰めてくれて、その上から履いたら、ピッタリでした。
母親はそれを満足そうに見てこう言いました、「大人になっても履けるように大事にしなさいよ」と。

スケート場は電車で20分くらいの所にあり、屋外リンクの大きなスケート場でした。
その日は快晴。皆とは駅に集合になっていました。 私は一番お気に入りの服を着て、そして白いスケート靴を赤いバックに入れて出かけました。
駅に着くと、既に何人か集まっていて、Mくんがいつものようにリーダーシップを発揮していました。 集まってくる皆に「切符は○○まで1枚くださいって言うんだぞ」、「手袋しないと滑れないぞ〜」とか、ぶっきら棒な言い方ではあったけど Mくんは皆にとても親切でした。

スケート場に着いてから、私はちょっとドキドキしながらその白いスケート靴を取り出して履いていたら、 近くにいたMくんがまた大きな声で「あ〜オマエもスケート靴持ってたのか〜」と言ったので、皆が私の方を振り向いた。 その時、白いスケート靴を持っていた女の子二人が私に近寄ってきて、ジーッと見つめられ、 二人に「それ何センチ?なーんか大きいねぇ〜(ここで笑いが入るが、その笑い方がイヤミな笑いに聞こえた。) ○○さん、足だけ大きいよ〜」と言って、その二人でまたイヤミな笑い方をされた。(私は皆の中で背が一番小さかった。) 私は真っ赤になって何も言えずにいたら、Mくんが「おい皆、早く滑るぞー」と言ってくれたので皆の視線を逸らすことができた。 でも何人かの友達に「いいね、そのスケート靴、カッコイイよ〜」と言ってもらえてすごく嬉しかった。

スピードスケート靴を持ってるMくんともう一人の男の子はとても上手くて、その二人は競争するみたいに すごい速さで滑り始めました。白いスケート靴を持っていた女の子二人組は、仲良く手を交差させて繋いで滑り、 私は手すりにつかまらなくても平気だけど、転ばない程度の滑り方で、ぎこちなく滑ると言った感じ。 “手すり磨き”の子もいて、数人固まってキャーキャー。途中からMくんともう一人の男の子が、そんな数人を引っ張ってあげたり、 私の前をバックで滑ってくれて、前方をあけてくれたりして、皆を楽しませてくれました。 そして帰りもMくんは最後までリーダーシップをとって、皆の笑いまでとってました。
このあとも小学校を卒業するまで数回、Mくんの先導で皆とスケートを楽しみました。

中学生、高校生になっても私は必ずこの白いスケート靴を持って遊びに行ってました。 でも高校を卒業する頃になっても私の足のサイズは小さいままで、母親が詰めてくれた布は要らなくなったけど、 OL時代も結婚してからも、そして今も23センチのスケート靴は厚い靴下を重ねて履いてちょうどいいサイズです。

「長く履けるように大きいサイズにしなさい」と言った母親がもし生きていて、 あれからこうして30年以上も健在のこのスケート靴を見たら、きっと驚くだろうなぁ〜

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