家の中で起きた事故

大学を卒業した長女子カバが新橋にある会社に勤め始めて1ヶ月。
翌日から2泊3日で新入社員の研修合宿に出かけるのでスーツケースを新調して準備をしていた。
ちなみに、この時は旦那は海外に出張中で、家には長女と私の二人だけだった。
長女は翌日朝早く出かけるので早目に寝たが、私はすっかり夜更かししてしまい、お布団に入ったのは3時近かった。

「お母さん!お母さん!」、長女にいきなり起こされた。
頭がボーッとしていた。それもそのはず、時計を見ると、朝の5時だったのだ。
・・・んぁぁ?返事にもなってない声を出す私。
「ドアが開かない!開かなくなった!」
・・・・・なんのこと?・・・ドア?・・・開かない?・・・なんで?
まったく頭が回転しない。

「とにかくちょっと来て!」

布団から出て、長女の部屋の前まで行くと、部屋のドアが閉まったままで、開かなくなっていた。
もちろん、ドアには鍵もなにも付いていない。開かないなんてそんなバカなことあるはずない!
そう思って、力ずくでドアを開けようと、ガンガン押してみた。
まったく開かない!
ドアのちょうつがいは内側に付いていてドアを外すことはできない。外に回って窓から入りたくても鉄格子があるので入れない。
長女が出かける時間まであと30分もない。
焦る!
私はちょっとしたパニック状態になった。
力任せに押して開けようとすると、そのパニックがどんどん大きくなっていくようだった。

私は少し頭を冷やそうと、長女に、なんで開かなくなったのかを細かに訊いてみた。
すると、ドアが開かなくなったのは以下の様な事情だったのだ。
写真1:廊下側から見た長女の部屋のドア。ノブを下にして押して開けるタイプ。
写真2:(閉まる前の状態)
こんな風に、ドアの前にある壁に折畳み式のテーブルを立て掛けていた。

写真3:(閉まる前の状態)
朝、スーツケースを持って部屋を出る時、このテーブルにスーツケースがぶつかったらしい。



写真4:スーツケースがぶつかって部屋を出た途端、こんな風にテーブルがドア側に倒れこんだ。
写真5:このようにテーブルは壁とドアの間で斜めになって、突っかえ棒の状態になった。
写真6:この状態ではドアをどんなに強く押しても開くわけがないっ!

ということで、ドアは開かないけれど、長女の手元にはスーツケースだけはある。
ただ、携帯電話とハンカチ、化粧ポーチと筆記具、そしてお財布が入ったハンドバッグだけが部屋の中にあるので、 携帯以外のものは私ので代用して持たせ、集合時間に間に合うように長女を送り出した。

さて、問題はここからだ。
最初は、ドアを壊すしかないと思っていて、マンションの管理人に先に連絡しておこう・・・などと考え、 1階の管理人室に向かったものの、途中で、「ちょっと待てよ」と思って引き返した。
これは先ず管理人に話すべきことなのか?ちがうよな。順番が違うよな。 そもそも、ドアを壊してもらうしか他に手はないのか? と。

引き返してからソファに座って考えた。
そーだ!インターネットで調べてみようと思った。
検索にまず「ドアが開かない」と入れてみたら、「ぶち破ろう」という言葉が続いたウェブしか出てこなかった。(--;なんじゃそりゃ!
言葉を変えて次に、「生活情報集」と入れてみたら、「便利屋レスキュー隊」というウェブを見つけた。すぐに電話をかけた。 すると、若いお姉ちゃんが出て、事情を話すと、「そういうのは扱っておりません」という冷たい返事だったので、 「じゃ、こういうのはどこに相談したらいいんですかね?」と訊いたら、「さぁ〜、ちょっとわからないです」とさ。
・・・・あーそうかい、わかったよ。ったく!どこがレスキュー隊じゃ!という怒りから、頼りは自分しかいない!ならば、なんとかやったろうじゃないか! という反骨精神が湧いてきた。

またソファに座って、考える。
長女が話してくれた「開かなくなったドアの状況」を、もう一度頭の中で想像してみる。
ドアの下の方に、突っかえ棒のようになっているテーブルを、棒かなにかで少しでも上に持ち上げられたら、あとはドアをそのまま押すだけで、 テーブルを上へ押し上げるように力の作用が働くのではないだろうかと、考えた。 その構図は、以下のイラストである。
運の良いことに、ドアの下は1センチほど隙間がある。
その隙間にテーブルを持ち上げられるような「モノ」は何かないかと、いろいろと手当たり次第に差し込んでみた。
最初に針金ハンガーを伸ばして差し込んでみたが、自在に曲がるもののテーブルを持ち上げるには弱すぎた。
次に、パソコン用チェアーの背もたれ部分を支える90度近いカーブの鉄板が目が留まった。すぐにそのパソコンチェアーを分解して、 カーブした鉄板を外し、ドアの下に差し込もうとしたら、カーブしている部分が意外と厚みがあり、そこが引っかかって入らなかった。
他に何か使えそうなものはないか、押入れの中までゴソゴソ探してみたけど、1センチほどの薄さでないとドアの下から差し込めないし、 そのまま90度近く上にカーブしてテーブルを持ち上げるには、ある程度の弾力性と強さがないと不可能だ。

やはり、壊すしか手が無いのか?・・・チクショー!いや、なにかあるはずだ!

そしてふと、思いついた。
近所にある100均のお店だ!そこにはいろんなものが置いてある。そこに行けば、何か使えるものがあるかもしれない! 最後の賭け!みたいな気分で、100均のお店に行った。

最初は、日曜大工の材料コーナーをいろいろ見て回っていたけど、どれも弾力性に欠ける。次にその隣にあった園芸コーナーをチェックした。 すると、ガーデニングの材料の中に、「小さなビニール栽培用の支柱」というのが目に留まった。全長1メートルくらいで山型にカーブしている。 弾力性があって、ある程度の強さもある。これだったら、もしかしたらテーブルを持ち上げられるかも知れない!という期待を抱き、即購入した。 2本セットで100円だった。ただ、太さがドアの隙間にギリギリのような感じがして、ちょっと心配だったが、やってみるしかないと思った。

帰宅してすぐに袋から出す。そしてドアの隙間に入れてみると・・・入った!やった! そのままその支柱を角度を上に変えて伸ばしていくと、途中でテーブルにぶつかった。 「これを押し上げればいいんだ」と思い、そこから一気に支柱を押した!
しかし、何度か支柱が左右に滑る。太さがないから当然だ。テーブルの真ん中辺りを勘で探り、一点集中で力を入れる!もぅ必死だった。 「頼むから持ち上がってぇー!」と叫ぶと同時にテーブルが少し上に浮いた手応えを感じた!その瞬間すかさず、そのまま肩でドアを押したら、 ズズッという音ともにドアが開いた!

開いた!・・・・開いたよ!開いたぁ〜
よかったぁぁぁぁあああ〜!マジで、ひとりで、しばらく感激に浸ってしまった。

その日の夜、長女が合宿先の公衆電話から心配して「どうなった?」と訊いてきた。 ちょっと驚かしてやろうかなと意地悪な気分になったけど、「ふふん。開けたわよ〜!」と少々自慢げに言って、どうやって開けたのかは帰ってからじっくり話した。

ということで、突然の予期せぬこの出来事は、力ずくだけで解決しようとするのは良くない事だと認識した。
状況をよく把握する事、そしていろいろな策を考える事。それはある意味、いろんな局面においても大事なことだと思った。

まっ!私の場合は、「なんだ、コノヤロー!」という反発から得たことだったけどね。(笑)

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