−Emerald Bar- from kayo
    mako様には、この3枚の画像をkayo's pageに掲載するや否や、激しく反応して戴き、 未だその絶叫ぶりは忘れる事ができません・・・でしたので、今回"絶叫3連発"で並べてみました。(^^; その他、掲示板アンケートでの数々の貴重なご意見等、いろんな視点での考察には頭が下がります。
    "エメラルド・バーへのご来店、どうもありがとうございました"
    『QUEENとの遭遇』
    by mako

    思い出すのも億劫であるが、しかし、忘れられない記憶というものがある。 私が「クイーン」なる集団を自らの脳裏に焼き付けた、あの出来事も、そんな忘れられない記憶の一つである。 いや、本人は忘れたいのだが、この「集団」のメンバーであった今は亡き人物がそれを許さないのであろう。 あれは、私がいくつくらいの事であったか・・・。

    いつものように、友達との遊びから帰ってきた私は、お決まりのようにテレビのスイッチを入れたのである。 そして晩御飯が出来るまで、ずっとテレビ鑑賞をするのは、当時の私の日課であった。 ちょっと大人びたものを好む子供であった私は、あきらかに当時の私くらいの年齢より上の世代をターゲットにしたであろう 番組「ぎんざナウ!」の熱心な視聴者であった。この番組は確か、銀座のスタジオから生中継していたと記憶している。 そして、平日は、ほぼ毎日、この番組になんとはなしにチャンネルを合わせていたのである。

    ある日、いつものように、私はボーッとこの番組を見ていた。・・・ただ、テレビをつけているだけ・・・というか、 特に、何か見たい目的があってこの番組を見ていたわけではない。ただ、裏番組のアニメに興味が持てなかっただけであった。 そして、この番組の司会者らしき人物が、何か急なニュースが入ったような口ぶりで言った事が、今でも記憶として 私の脳裏に残っている。確か、こんなセリフであった・・・
    「クイーンとキッスのビデオが今、届きました!!」
    もしかしたら、司会者のこの発言は正しくないかもしれない。しかし、私の記憶によれば、これに近い発言であったことは 間違いない。司会者がどんな情況でこの言葉を口走ったのかさえ、断片的ではあるが、映像として記憶に留めているのである。

    「キッス」というものは知っていた。いや、ぼんやりとではあるが、子供心にそれが何であるのか認識していたと言う方が 正しいだろう。ただ、その認識というのは、あくまで、「火を吹く妖怪」という子供らしいものであったが・・・。
    言い訳をするのであれば、幼い私が「ロックバンド」などという高尚な言葉なぞ知るはずもなく、 それはあくまで、子供が見たままの印象をその通りに認識していたに過ぎない。
    「クイーン」・・・・・。
    それは当時の私にとって、未知なる響きであった。だが、それを耳にした瞬間、その異国風の甘美な響きに何故だか 幼い胸がときめいた事を記憶している。しかし、それは一瞬の蜃気楼の様なものであり、次の瞬間には、 「ぎんざナウ!の人が<クイーンとキッス>っていう位だから、似たようなモンなんだろう・・・。」と、冷静に分析していたのだった。 つまり、クイーンも「火を吹く妖怪」の類似品に違いないと・・・。

    この日の出来事が、その後の私の一生を決める事になるとは、微塵も想像出来ない子供の私であった。
    次の瞬間、画面は暗転し、ある人物の顔が映し出された。その時、私はまだ、この人物の名前を知るはずもなかった。 しかし、それが「火を吹く妖怪」ではないらしい事だけはハッキリと識別出来たのだ。 さらにその人物の顔は「火を吹く妖怪」とは別の意味で、不思議な妖しさを感じさせたのだった。それは白黒の映像のようであった。
    しかし、よく見ると、白黒なのはその人物がまとっている衣装であった。だがその映像を白黒であると 私に思わせた原因はそれだけではない。 その人物のひときわ大きな目・・・・・。まさに、黒目と白目が見事なまでに 際だったその目が、幼い私をブラウン管の中からじっと凝視していたからである。
    私はとっさに、手に持っていたタオルで顔を隠した。何故だか理由はわからない。 しかし、子供心に、何か見てはいけないものを見てしまった・・・という思いに駆られ、その様な行動をとったのであろう。
    だが流麗なピアノの音と摩訶不思議な魅惑的ヴォイスが、いやおうなしに耳に流れ込み、今まで聞いた事もないようなメロディーが、 幼い私のわずかな好奇心を目覚めさせたのだった。幸いにも私が持っていたタオルは、温泉等で配る目の荒い物であった。
    私はおそるおそる閉じていた目を開けた。しかし、まだ顔をタオルで覆ったままだった。 何故だか、タオルを外して、ブラウン管を直視する勇気がなかったのだ。だが、現実には、薄手のタオル越しに、 まるで白いもやを掛けた様に、その映像が目の中に飛び込んで来たのだった。
    その人物には胸毛が生えていた。うっすらと見えるその映像は、私の想像をはるかに越えていた。 知っていた「キッス」とも違っていた。暗い画面と不思議な荘厳さを持った音楽が妙にマッチし、 私は今まで見た事もない世界にいざなわれてゆくのだった。ついに私は、顔を覆っていたタオルを外し、 テレビの前に正座した。画面には、真ン中で白と黒に分かれた、身体にピッタリとフィットした衣装を、 身にまとった人物が手を広げて歌っているところが映し出されていた。

    「バンド」と言えば、当時、私は「レイジー」や「ゴダイゴ」くらいしか知らなかった。そもそも、「バンド」というもの自体、 「歌手に専属の演奏をする人達が付いている」程度の子供らしい浅はかな認識であった。 それでも、子供心に、なぜか「クイーン」は私がそれまで知っていた「バンド」というものとは違うと感じたのだった。
    歌っている人物があまりにも強烈だったからであろうか??いや、それだけではない。 チラッと映る楽器を演奏している人達にも、奇妙な違和感を覚えた。 音楽、人物、衣装、映像のシュチュエーション、全てに於いて違和感だらけであった。 しかし、この「違和感」こそ、「クイーン」を私にとって忘れられない存在とした、最大の要因であろう。

    ともかく、私はそのわずか数分の出来事に、軽やかなショックを覚え、 私の脳裏に一生消えない刻印として焼き付けられてしまったのだ。 あまりにも突然の、しかしテレビという一種暴力的存在があったからこそ、 偶然にも起こり得た、運命的な洗礼であった。

    残念ながら、私はその後、「クイーン」と再び遭遇する事は、しばらくなかった。 私の耳の奥底では、あの時聴いた曲が絶対音感の様に忘れ得ぬものとなって鳴り響いていたが、 その曲が「We are the champions」という曲名であると知るのは、あの出来事から数年を経た後の事だった。



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