BEJART BALLET
『バレエ・フォー・ライフ』

1998年7月13日(Mon) 大阪フェスティバル・ホール

会場には、砂漠で吹く風の音だけがしている――
そのうち、あの体にしみ込んだ曲の香りが漂ってくる。 そう、この曲。まるで朝の目覚めのような、この曲。
湖畔の別荘では、きっと朝の景色はこんな感じなんだろう。
朝の光と、鳥の声。今日という日の始まりは……

It's a Beautiful Day
この曲と共に、緞帳がゆっくりと上がる。朝靄のようなスモークが天井から降り注ぐ。
ステージには誰もいない……
と思いきや、幾人もの人が白い布をかぶって眠っている。
でも、やがて、曲に合わせてゆっくりと起きあがってくる。
一斉に起きあがると、かぶっていた布を放り投げる。
すると、彼らは白と黒のスレンダーなコスチュームを纏っている。
よく見ると、一人一人違う衣装。
全身ピッタリとしたスエットスーツもいれば、タンクトップに短パンという姿のダンサーもいる。
全員が白地に黒のラインが入った衣装だ。
さっき放り投げた布を引き寄せて丸め、ボール状にし、それをもってダンスを披露する。
ステージ総勢40名近いダンサーがいて、全員同じ動きをする。

手の指先からつま先まで、的確な動き。そして、しなやかだ。
飛んだりはねたり回ったり、
全身をゴムのようにくねらして、最初の位置につき、今度はマネキンのように動きを止めてしまう。
さっきまで動き、踊っていたダンサーが同時に時間を止める。
曲も終わっている。

ピ・ピ・ピ……デジタルな音がして、大勢の中の一人が機械的な動きをする。
ピ・ピ・ピ……また、誰かが動く。
ピ・ピ・ピ……また誰かが。
ピ・ピ・ピ……ピ・ピ・ピ……
めいめいに機械的に、ロボットのように動き始める。そして、腕時計を見る動きをする。
流れ始めるのはこの曲……
Time
人が、ステージを縦横無尽に正確なリズムで歩き始める。
そして、再びダンスが始まり、曲の最後にダンサーが円陣を作り始める。
いろいろなダンスに、いろいろな曲が流れる。
Let Me Live
Brighton Rock
ブライアンのギターの音色に合わせて、一人のダンサーが椅子を持って登場。
黒いシャツとズボン。椅子を舞台の中央に置く。
舞台脇から出てきた長髪の男。全速力で椅子と男の周りをグルグル回る。
そして、ブライアンのギターが急にやむ。
さんざん走り回っていたその男は長髪(実はカツラ)をとって叫ぶ。
「きみの音楽を止めてすまない、ブライアン!『ブライトン・ロック』は本当にいい曲だけど、
今は『みんなのための天国(ヘブン・フォー・エブリワン)』が必要なんだ!」
……そして、この曲が流れ出す。
Heaven for Everyone
記憶が交差しているので明らかではないが、ここで両足にテレビモニターを履いた男が登場する。
重いであろうテレビを軽々持ち上げながら歩いてくる。
モニターには小さくフレディの映像が映し出されている。
(メイドインヘブンの「輝ける日々」の映像……横顔で考え込むフレディの映像へと移っていく……)

I Was Born To Love You
まず、黒のドレスの女性登場!
黒のタイツの男の登場!
黒の女性の激しい踊り。黒の男、周りを踊りながら回る。そして一度脇に引っ込む。
黒の女性悲しいダンスを踊る。
再び現れた黒の男は白いドレスの女性を連れている。
二人でもつれるような柔らかいダンス。
黒の女性、それを見ながら激しい踊り。
黒の男はなぜか突然白の女性の髪を掴み、引っ張り回す。舞台の端から端まで引き回し、
それを見ながら黒い女性は依然激しいダンス。
白の女性、動かなくなる。
黒の男、白の女性を抱きかかえて悲しい感じ。
黒の女性、手に何かを掴む動作をする。それを握りしめたり、ゆるめたりを繰り返す。
そして、何か大切なものを撫でるような動作をする。すると、白の女性が再び黒の男と踊り始める。
踊りながら二人は退場。
黒の女性、ステージ中央で膝に体を埋め小さくなる。
曲が終わっていく……
Cosi Fan Tutte (quintette) Mozart/モーツァルト「コシ・ファン・トゥッテ」
Get Down Make Love (最初の伴奏だけ)
Concerto pur piano/モーツアルト「ピアノ協奏曲」
Seaside Rendezvous
水着を着た男女が登場。
手にしたバスタオルを拡げて日光浴。その後、またタオルを手にして踊り始める。
バナナを被った燕尾服の男登場。水着の女性に最初はちょっかいを出されるが、一緒になって楽しく踊り出す。

You Take My Breath Away
球形のオブジェに入った女性。それを転がす男性登場。
そんな感じの二人が二組登場する。
舞台はどこか悲しい感じ。
球に入った人がそれから足を出して立ち上がり、ゆっくりとしたダンス。
舞台脇から滑車つきの担架を押しながら登場する二組の人。担架にも人が乗っている。
反対側からも登場。担架の上の人もじきに動き出して、その上で足を上げたり体をくねらせたりしながら踊る。
二つの担架をくっつけると、担架の上で踊ってた人が、お互いに絡むようにして踊り始める。
そしてまた、担架は舞台脇に運ばれていく。
担架の上の二人、離ればなれになる。
曲が終わる……
モーツアルト「フリーメーソンのための埋葬曲」
この曲の前に、Death On Two Legsの前奏が流れ、舞台上から巨大レントゲン(骨)のパネルが下りてくる。
ライト暗転。大きな骨の前に人が立ち、人差し指を高く挙げる。ソロダンスが始まる。

Radio Ga Ga
舞台端に白い小部屋。
黒人の男、黒い短パンだけの衣装で登場。
小部屋に入る。
天井と正面の壁は取り払われているが、壁があるという設定らしい。

黒人の男、出られなくなる。必死に壁を叩くパフォーマンス。
黒人の男、小部屋の中央にうずくまり、動かなくなる。
白人の男、さっきの黒人の男と同じ格好で登場。
小部屋の前に立ち止まり、そこに入る。そして、さっき黒人の男がとったような行動をとり、座り込んで動かなくなる。
また別の白人男性登場……
何度も何度もそれを繰り返す。
気がつけば、小部屋は男でいっぱいになっている。小部屋の男達が一斉に中で動き始める。
曲が流れ始める……
男達の動きが一転して、安定した動きで横に体を揺らす。曲に合わせている。
赤いレザーのジャケットの男登場! そして、黒いレザーのジャケットの男も登場。
赤いジャケットの男、白い小部屋を押す動作(ビデオからと思われる)。二人のダンス。
曲最後で、白い小部屋の壁が倒れる。中の男、それぞれに散りながらダンス。白いドレスの女性登場! 
赤いジャケットの男性、旧式ラジオを抱えながら再び登場。曲が終わる。

A Winter's Tale
さっきの小部屋はそのまま。
破れた枕を持った上半身裸で、黒いタイツの男登場。踊りながら、またその小部屋に近づいていく。
それを余所に、小部屋の横の広いスペースでソロで踊る男性。ゆったりとした白い衣装。
倒れた小部屋の壁が二カ所だけもとに戻される。後一枚の壁は倒れたまま。
舞台端からトップレスの女性が黒い短パンだけ履いて登場。
小部屋に入っていく。
既に中にいた男性が破れた枕から羽毛を取り出して上に投げている。
外で踊っている白い衣装の男性が、その小部屋の周りを踊りながら回る。
そしてやがて退場。
<小部屋の中の男性と女性が枕をはさんで抱きあい、お互いに重なって倒れていく。

曲も終わりに近づく。
さっき退場した白い衣装の男性。白いバラの花束を抱えて走り出てくる。
小部屋の前で、抱えていた花束を放り投げる。
曲が終わる……
舞台にはバラが散らばったまま……
次の曲が早々と始まる。
The Millionaire Walltz
この曲の最後に、モップを持った男が登場する。散らばったままのバラを舞台の外に掃いていく。
うまい具合に、一本のバラだけ舞台に残っている。
ダンサーが一人走り出てきて、そのバラを手にする。
Love Of My Life

ラブ・オブ・マイ・ライフが終わり、再びBrighton Rock……
また椅子の男。
その周りを全速力で駆け抜ける……
今度は金色の長髪で、レザーの黒いジャケットを着て、ミニスカートを履いた女性。
……女性、と思いきや、やはり、カツラを取ると男性。
この男性、一度退場し、再び戻ったときには見覚えのあるマイクを持って登場する。
そして、その衣装といい、その動きは、明らかに「あの人」を彷彿させる。
しばらく、その人物はステージを練り歩く。
舞台の至る所でダンスが披露されている。
曲がBohemian Rhapsodyへと移っていく。
舞台の上部からスクリーンが下りてくる。
I Want To Break Free
舞台上にいた多くのダンサーが舞台の両脇に並んで、静かにスクリーンに映し出される人物を見守る。
スクリーンには生前のジョルジュ・ドンの映像がある。
十字架に釘で打ち付けられるイエスのパフォーマンス。
長く、白い布に絡まって情熱的な踊りを見せる。笑ったり、怒ったり、恐い表情を見せる。
その間、ずっとブレイク・フリーの曲が流れている。

――一旦、全員退場。

再び現れた男。
白い、胸の大きく開いた全身タイツ。丸い金のペンダントをしている。
ピエロのように、大袈裟な黒い靴を履いている。
流れる曲はこの曲……The Show Must Go On
曲が盛り上がる所で、舞台脇に待機していたダンサーが一気に流れ込んでく る。
変わった模様の描かれた布を持っている。それを拡げて、それに隠れるようにして踊る。
そして、ふたたび、砂塵混じりの風が吹く音がする
舞台上のダンサーが持っている布を裏返しにすると、最初の場面の白い布になる。そこから顔だけを出している。
次第に、膝を折って坐り、そのまま後ろに寝そべってしまう。白い布をすっぽり被る。
舞台は、また誰もいないような、真っ白な状態になる。
静かに、舞台が暗くなり、緞帳が下りてくる。
ショーが終わる。

けれど、ショーは終わらない。
ずっとずっと続いていく。
――生きる限り。


一時も休むことなく、約二時間半の舞台でした。
ちょっと、どれがどの曲のときの踊りだったかというのが正確ではないし、上の文章では書ききれない場面も数多くありますが、 バレエの方は全体を通してこんな感じでした。曲順はプログラムの通りなのでそのままです。 踊りが曲に合うか合わないかは別として、すごい意気込みと、エネルギー、迫力がありました。 衣装も本当に素晴らしかったです。上の文には書いてませんが、まるで『Hot Space』のジャケットをイメージしたような、 4原色の奇抜なドレスなんてのもありました。で、この公演が終わった後、ものすごい拍手が起こり、 計3回もカーテンコールに応えてくれてました。最後の"The Show Must Go On"は2回もかかったほどです。
by kyoko Hashimoto


ベジャール氏は今回の公演にあたり、 クイーンのCD&ビデオを全部揃えて、じっくり拝見したそうです。それを見て、フレディの情熱に惚れ込んだと書いてありました。 そして、奇しくもフレディと同じ歳で、時期も近くして亡くなったジョルジュ・ドンという有名な振付師と、 この二人の天才に触発されて今回の「バレエ・フォー・ライフ」を創作したそうです。
*「バレエ・フォー・ライフ」のビデオは、東芝EMIより発売されています。
BEJART BALLET LAUSANNE

http://www.bejart.ch/

MERCURY & BEJART
ベジャール氏がモントルーにある別荘を購入、そこからはとても素晴らしい景色が見えます。
そんな光景に抱かれながら過ごした数日後、QUEENの最後のアルバム「Made In Heaven」が発売。 そして、ベジャール氏が見たそのジャケットの景色は、自分の別荘から見える景色とまったく同じだったそうです。

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