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           1999年8月19日 夜 
         
         “今年も素晴らしい誕生日だった・・・”、 
         
         男は時計の針が11時を回るのを見ると、 
         
         満足そうに笑みを浮かべながら書斎に入った。 
         
         男は椅子に腰掛け静かに目を閉じた。 
         
         “俺も今年で四十八か、今までいろいろあったが幸福な人生だ。 
         
         しかし、この10年間は静かなものだな。 
         
         10代・20代の頃の生活が嘘のようだ・・・” 
         
         目を開け、机の上に置かれた封筒を手にとりナイフを入れた。 
         
         ロバートからだ。 
         
         「愛する父さん、誕生日おめでとう。 
         
         今年は残念ながら仕事が忙しくて家には戻れないけど、 
         
         来月には必ず顔を出すよ」 
         
         男は小さくうなづきながらべグラスを手に取った。 
         
         “あいつも、もう二十四だもんなぁ・・・働き盛りかぁ” 
         
         そう独り言をつぶやき立ち上った瞬間、 
         
         ロバートの手紙の下に置かれたもう一通の封筒が目に入った。速達だ。 
         
         “一体、誰から・・・” 
         
         封筒の裏を見たが差出人の名は書かれていなかった。ただ「Q」の文字だけだ。 
         
         再びナイフを入れ、中に入っていた二枚の便箋に目を通した。
          
         
         「ちょっとばかり私のハードなギターに付き合ってくれ、 
         
         さもなければ次の作品は『ロックス2』に変更だ!」 
         
         from Brian 
         
         「来月初旬、君の所に迎えの者が行く。来るか来ないかは君次第だ。 
         
         もし不参加の場合、「夜の天使」は外されると思ってくれ。」 
         
         from Roger 
         
         ガッシャーン! 
         
         男はグラスを片手で割ると、すぐさま立ち上がった。 
         
         (“あいつらー”) 
         
         ドアを思いっきり閉め、廊下に飛び出すと、そこにはローラが立っていた。 
         
         “父さん、どうした・・・きゃー、手から血が出てるわ!” 
         
         ローラが叫び声を上げると、家族のみんなが飛び出してきた。 
         
         “あなた・・・どうしたの” 
         
         妻の声も耳に入らないらしい、男は目的の場所へ一直線だ。
          
         
         男は物置で、なにやらゴソゴソと探しはじめた。 
         
         “あった !” 
         
         カバーに付いている埃を手で掃いのけると、 
         
         取り出したべースの弦を、そっと手で触れた。 
         
         “あっ、このギター、写真で見たことあるー!パパ、バンドやってたんだよね” 
         
         父親の後を追ってきたキャメロンがそう問いかけると、男は大きく頷いた。 
         
         “お父さんは、働くぞー!” 
         
         男ジョン・リチャード・ディーコン
         48歳、本日活動再開である。 
         
          
         
         “Happy
         Birthday, John Deacon” from Sweet & Fairy 
         
          
         
          
                 
      
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