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昨日見つけたあの印象的な絵は既に売られていた。
あの黒とも紺ともいえない毛布に包った少年の絵。
ああ何てことだ。買い逃すなんて・・・。
分かってくれるかいこの僕の悔しさ。
いつもならその場で即購入するのに。
全く飛行機っていうやつは、
時間通りに飛ばなきゃ気が済まないんだ。
だから移動移動の毎日は嫌いなのさ。
でも時間だけは僕の手には及ばないからね。
昨日ホールで踊っていたあの女性を見たかい。
一緒に踊るんだった。言葉を交わすんだったよ。
ちょっとトイレに行ってる間に姿が見えなくなってしまった。
目と目は少し離れているけど、実に神秘的な顔立ちで、
彼女の見せる笑顔は僕を一発で射止めてしまったんだ。
全く、わずか2〜3分のことなのに、
こんな素晴らしい出会いを逃すとはね。
人生何十年と言ってもあんな瞬間はそうはないよ。
でも時間を止めることは僕には出来ないのさ。
昨晩家に帰る途中、車の中から見たんだ。信号待ちしてる間さ。
グロースター・ロードのあの信号を曲がったところだよ。
寒そうにうずくまっている茶色の猫をね。
でも“降ろしてくれ”って言えなかった。
あんな人目に付く所で外に出たら大変だからね。
でもちょっと後悔しているんだ。
この僕のしたことが命取りならなければいいなって。
でも時間を逆戻りすることは僕には出来ないんだ。
歳月人を待たず。
残酷だけど、時を止めたり逆戻りすることは、誰にも出来ない。
どんな大金持でも、スーパースターでも。
時に逆らうことは出来ないんだ。
もちろん僕にも。
だから一瞬一瞬を全力でがんばる。
妥協は無しさ!
でも、がんばっているのは僕だけじゃない。
幸福に飢えているのは僕だけじゃない。
きっとあの絵を買った人は、今頃部屋で感動の時間を過ごしているだろう。
あの女性も今頃素敵な男性と食事をしているかもしれない。
そしてあの猫も誰か心のやさしい人が育ててくれるに違いない。
そうさ、全ては過ぎてしまったことなんだ。
きっと全てがうまくいったと信じよう。
だから僕も明日の楽しみを考えるとしよう。
時は止められないけど、やってくることだけは確実なんだから。