'51

昭和51年
心地よい秋風を感じるころだった。
中学3年生の彼女は、母親に頼み込んで白いニットのベストを編んでもらった。

それは、家庭用編み機で編まれていて、胸のところに、QUEENという文字が入っていた。 彼女は嬉しくて、思わずそれを両腕でぎゅ~っと抱きしめた。

ある日、彼女はその白いベストを着て、隣町の高校の文化祭に出かけた。
何人かの先輩に声を掛けられた。

「クイーンって書いてある、かわいいネ」
「それ、キラー・クイーンのクイーンだね」

彼女も白いベストも自慢げに輝いていた。

月日は流れ、いつしか彼女は成長してベストが着られなくなった。
彼女はそれを大切にタンスに仕舞った。

平成16年
彼女の娘が、中学生になった。
彼女はあの白いベストを取り出してきて、反応を伺った。
すると、「あ、クイーンじゃん!」と言って喜んでくれた。

この年、木村拓哉主演のTVドラマ『プライド』にクイーン曲が起用された。
しかもシングルカットされていないアルバム収録曲もドラマ内で流れた。

日本で空前のクイーン・ブームが再燃した。

また月日は流れ、着られなくなったベストを彼女はまた大事にタンスに仕舞った。

平成20年
彼女の姪っ子が中学生になった。
今度は、少しばかり遠慮がちに、白いベストを出して見せた。

すると、知ってるよ!という表情で「クイーンでしょ」と言った。
白いベストを喜んでくれた事に彼女はホッとした。

TVドラマ『プライド』の主題歌だった「ボーン・トゥ・ラヴ・ユー」は、姪っ子が小学生の時に運動会で使われたらしい。

依然として日本で「ジュエルズ」人気が高い事を身近に感じ取った。

月日は流れ、白いベストを着てくれたのは結局、姪っ子が最後になった。
彼女はそのまま白いベストを手放した。

 
 
  

再会

   

令和8年
あの白いベストが、彼女の手元に戻ってきた!!

長い歳月が経ち、彼女はすでに還暦を過ぎていた。
ベストを編んでくれた彼女の母親は、もうこの世にいない。

ただ、それを見つめる彼女の眼には、昭和51年の母親の面影が映っていた...