第三章
Impressive Scene
先日見たテレビの特集番組の中にとても印象に残るシーンがあった。
それはほんの10秒足らずだったけど洋楽ロック・アーティストのライヴ会場で観客にカメラが向けられた時にクローズアップされた一人の女性の姿だった。
彼女はおそらく還暦に近いであろうと私は見てとった。
しかし彼女のその綺麗なブルーの瞳はステージ上の彼を食い入るように見つめていて、手拍子をしながらステージの彼にピッタリ合わせて歌っているのが、
その彼女の口の動きでハッキリと感じとれた。その瞬間私は妙に嬉しくなってワクワクした。
彼女はおそらく毎日のようにそのアーティストの曲を愛聴しているのだろう。
そして彼女のあの眼差しは、まるでビデオが一般家庭に普及する以前に、テレビで放送されていたクイーンの貴重なライヴ映像を
脳みそにインプットするかの如く、瞳に焼き写すように見ていた私と同じだと思った。
その頃の私の年齢は彼女にしてみたら孫くらいの年齢になるだろう。だけど、もしその頃の私と彼女が同じライヴ会場にいたとしたら、
きっと同じ表情であの眼差しで、ステージを見つめているに違いない。そう思った。
「もう若くはないし」などと言って、歳を重ねていくのはちょっと寂しすぎる。還暦を迎えようが喜寿を迎えようが自分が好きな音楽や
アーティストに夢中になれる、自分が好きな事に夢中になるというのはとても素敵なことだと思うし、たとえ好きな音楽がロックであっても年齢は関係ないと思う。
そして、スタンディングのままライヴを見終えた彼女が、こう言っていたかもしれないと思うとまたワクワクする。
「誰にも私の事を“おばあちゃん”だなんて言わせないわよ」ってね。