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長編小説

ノーフォークの春(後編)

暖炉とコーヒーカップと寒い友達と

12月31日 14:31 (日本時間 同日23:31)

「あっ忘れてた。日本はまもなくニューイヤーだぞ。紅白見なきゃ!」

「もう白組のトリじゃないか。」


12月31日 14:33 (日本時間 同日23:33)

「歌も上手いし、何より歌詞がかなり秀逸だな。難しい部分もあるけど。」

「そうなんだよ、俺もそう思ったんだ。」

「ある意味、Don't Try So Hard だよな。もっと明るい気持ちになれるくらいだ。」


「なあ、Mr.モリは僕と同い年のようだ。この曲は、俺たちのセカンドアルバム発売前の曲だぞ。」

「えーと、日本歌謡大賞とレコード大賞のダブル受賞だってよ。凄いな。」

「俺たちが王様だ怪獣だなんて曲を演っていたころ、同い年の男が人生について語っているとは。」


「春を迎える前に、嫌なことは暖炉で燃やしてしまえか。」

「だから襟裳の春は、何もない春ってわけさ。観光名所がないってことじゃなくてね。」

「襟裳で暮らす人々は、毎年嫌な思い出を引きずることなく、まっさらな気持ちで春を迎えるか。」

「まさにノーフォーク、キングス・リンだ!」

12月31日 06:29 (日本時間 同日15:29)

「Mornin’」

「♪君は・二杯目・だよね、コーヒー」

「気に入ったようだね。声も似てるよ、ハスキーで。カバーしたらいい。」

「(ありかも!)どうだ二杯目?」


「それより、この歌の最後の “寒い友達”って、冬の例え?」

「冬がやって来る。う~ん、ここは素直に苦労を背負った友達のことじゃないか。」


家の前に車が止まる

(えっ、このVolvoのエンジン音。まさか)

寒い友だちが訪ねてきたよ


遠慮はいらないから 暖まってゆきなよ


玄関に男が表れる。

「おい、ロジャー!またブライアンと二人で抜け駆けして。お前らのインスタ見れば、この写真の煙突がロジャーの実家だってすぐに分かるぞ。 いや~50年ぶり、懐かし~な~。そう言えば勝手に新曲を出しやがって。ミラクル時代だからQueen名義だろうな。印税楽しみにしてるよ。」


「それにしても何にも無いな、ノーフォークは。」


♪ノーフォークの春は何もない春です~


「なんてね。あまりに何もないから道に迷っちゃったよ。」

「おっ、暖炉で何燃やしてるんだ? 二人のソロアルバムか?ほらもっと燃やして燃やして。 そこのAnotherWorldもバーンと燃やして。バーンとBurn、こりゃ一本取られたな。 そこのサイバーバーンのVHSテープ、燃やすと有毒ガスが出るから気を付けろよ。」

「ん?どうしたんだよロジャー、久しぶりに会ったっていうのに、その顔は。」


♪ 遠慮はいらない~から、暖まってゆきなよ~


「寒いから、あがらせてもらうよ。」


「・・・・・・・」

「どうしたロジャー、誰か来たのか?」


「ブライアン、今は来ない方がいい!」


「あっ、僕のレッドスペシャルが・・・」


「やぁ、ブライアン、久しぶり!そこのギター、生まれ故郷の暖炉に帰してあげようと思ったけど、2月に日本で使うと聞いて止めといたよ。燃えなそうだし。」


「・・・・・・・」



暖炉の中の炎がメラメラと音を立てて燃え始めた。

一年間、ありがとうございました。
みなさん、よい春をお迎えください。

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