Mikanの日記〜別冊〜

18歳の夏でした。就職先が決まって、私は住むアパートを探してました。

手持ちの資金は12万円、高校を卒業した春から、それまでバイトして貯めたお金でした。



アパート探しには、その地に住んでる親戚の叔父がいろいろと世話してくれたけど

市中心部から急行電車で5分という好立地だったわけで、

当然、たった12万の資金じゃ、引越せるアパートは中々見つからなかったわけで・・

 

叔父の家に世話になって 3日目。

 電話がリリーン♪ 夕食の買い物にでかけた叔母からだった。

  

  “見つけた!見つけたよ〜家賃1万6千円!しかも駅前よ!” 叔母の声は自慢げ

  

  “うっそ〜!”   半信半疑でも自分の声は嬉々として高いトーン



  “とにかく今からおいで!”

その言葉に返事すると同時に、私は受話器を置いて駅前にいる叔母の元へ急いで行った。 



叔母はその格安の物件を不動産屋ではなく、口コミで仕入れたらしい・・

早くそれを見たい私の気持ちを知りながらも、叔母は仕入れた話の成りゆきから喋る。



    叔母の機敏性と行動力には今現在も私は頭が下がる事が多い、

    この時もそうだった

    一通り成り行きを喋った後、叔母は私の背を叩いて言った



“電話でこれから伺う約束しといたから、ホラ 行くよ!” 



 

駅前広場からは3方に大きな歩道が伸びている。私達はその真ん中の歩道を進んだ。

1分もしない内に、左側に建っているビルとビルの間に少し傾いている古家が見えた。

どう見ても、立ち退きを最後まで拒んでる家だ

がしかし、叔母が私の視線の方向を指して

 

  “あれよ、あの家! ね?(駅に)近いでしょ〜!” 叔母の口調はまだ自慢げ



   ・・へ?     声になってないし私の口は開いたまんま



右に傾いてるその家を見て少し動揺していたが、

その時初めて叔母の口から、2階の部屋を間借りすると言う事を聞き、

「駅前、家賃1万6千円」って事を充分納得出来た。 



でも 見えたのは良いけど、その古家に行ける道が見あたらない。

いっそ この大きな通りと境にある塀を乗り越えられたら早いのに!と思ったが、

駅前で人通りが多すぎた。

とりあえず今歩いてる歩道と接してる車道に出て、家の前にあるビル正面に行ってみた。

するとそのビルとフェンス側の間に 人ひとりがやっと通れる隙間の道があった。

そしてその隙間を5メートル程進んだ所で“1万6千円”の全貌が見えた! 



家の前には左右に門柱があった。

叔母の話では お婆さんが一人で暮らしていると言う・・

門柱から3歩入ったとこで 左にガラガラと開ける玄関戸があった。



  “こんにちは〜、先程お電話した○○ですけど〜” 叔母が開けた戸から顔だけ入れて言った



すると、白髪まじりの髪を後頭部下にお団子にした細身のお婆さんが出てきた。

キチッとした身なりではあったけど、なんとなく 清潔さを感じられなかった。 



玄関をあがって、短い廊下の突き当たり左にある階段を3人で一列になって上がった。

先頭を行ったお婆さんが襖戸に取り付けてある南京錠を外して戸を開けてくれた。 

二部屋あった。 



6畳の畳の部屋と、6畳の板張りの台所、

・・と言っても 板張りの方は「台所」と呼ぶには相応しくなかった

   水槽みたいな鉄の塊で出来た「流し」が置いてあるだけで

   磨き様のない錆びだらけの水道管がむき出しで伸びてて

   蛇口から流しまでの高さが充分過ぎたのか

   蛇口の先には15cm程の緑色したホースが付けられてた

    ・・ホース外せば足洗い場としても充分使える・・ 



二部屋とも窓はガラス戸で全て灰色をした(透けて見えない)ガラスだった

そしてその窓は当然木枠で、鍵は差込んで廻す型だった。



台所の方の窓をガラガラと開けてみた。

駅前広場に通じる大きな通りがよく見えた。

そして、先程いっその事乗り越えたいと思った塀を境にして、この家の畑があった。

よく見ると、畑と言っても野菜など何もなく、汚れた木の椅子がゴロンと置かれていて、

ゴミを焼却しているであろうその痕が、灰と土が混ざり合ってこんもりと盛り上がっていた。



1階に降りてから、お婆さんがトイレと風呂場に案内してくれた

その風呂場を見た瞬間、私はお婆さんの清潔感の無さを確信した。



浴用品は何ひとつ置かれていないし、

なにより、一目でその風呂場が毎日使用されていないと判る程汚かった。

トイレも戸を開けてみた。

和式でドボン(汲み取り式)。しかも随分昔にどこかで見たことがある 木製の便器だった。



壁一枚で隣り合わせになっている風呂とトイレには驚く事に電気照明が無かった。

お婆さんはロウソクを使用しているのだと言う・・。 

     

手持ちの資金が12万の私に贅沢は言ってられない。私はその場で即決した。



何度も軽い会釈をしながら私と叔母はその家を出た

車道に出るまでお互い何も喋らなかったが、そこに出てから同じ事を考えていた事がわかった。

「お風呂はこの先にある銭湯に行けばいい、トイレは駅ビルを利用すりゃ何とかなる!」と。

「間借り」したこの家は、見た当初に想像してた通り、立ち退きを迫られていて、
来年5月には撤去されるという事で、それで家賃には電気と水道の使用料も込みという事が
私が契約を即決した一番の理由でもありました。
お婆さんからは、それまでの間に次に住む所を探しておく様にと言われ、
叔母からは、それまでの間にその資金ももっと貯めておく様にと言われました。
この時の自分は、それらに頷き、自分が働いたお金で、 どこまでどんな暮らしができる様になるのか
その可能性に夢と期待を抱いてました。

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