Mikanの日記〜別冊〜

仕事にも慣れてきた頃の事。

仕事帰りに先輩たちに誘われて飲みに行った。(すみません、未成年でした)



「遅くなる時は電話をかける事」

というお婆さんとの約束は頭にはあった、

頭にはあったが、あの楽しい時間の最中に、あの盛り上がってる最中に

電話をかけに席を外すという行動が出来なかった。

それにタダ酒でごちそうになってる身だし、途中で帰るのも勿体無いし・・。

  

満腹状態で改札を抜けた時、時計はとっくに0時を過ぎていた。

  

  何でも やっちまってから反省する・・



辺りも真っ暗、 家の中も真っ暗。

そっと玄関を開けようとしたが、開かない、

今度はグッと力を入れてみたが、やっぱり開かない。

玄関戸の隙間に顔を近づけた、

既におやすみなのは承知の上でお婆さんの名前を何度か小声で呼んだ。



私に渡されている鍵は2階に入る戸の鍵だけで玄関の鍵はない。

  

玄関で5分程粘っていた私は、諦めて裏の畑にまわった。

そして、そこに捨てられてた木の椅子に気が付いた。



   昔、木造の小学校で机も椅子も木製を使用していた事がある。

   その時に先生が座る椅子だけは生徒のそれより太い木で頑丈だった。

   この捨てられてる椅子の感触は、それとよく似ていた。



椅子を起こして、崩れないかどうか腕に力を入れて2、3回上から押してみる



   ・・・やれるかも



椅子を屋根の下のちょうど良い位置にもってきて、

もう一度確かめる様に足も2・3度掛け直しながら、ゆっくりと乗った。



椅子の上に立つと、なんと1階の屋根の先が私の胸の位置にあった。

私の身長は決して高くはない、

この古家が傾いてるからこそ、その位置にくるのだ。

よって、その状態から屋根に上がるのは、いとも簡単だった。



 ヒョイっと屋根に身を上げ、瓦が崩れない様にそぉ〜っと右足を掛ける



      イケる! 



 今度は左足も屋根に掛けた。最初に畳の部屋の窓に向かって這っていった。

 が、鍵がかかっていた、



      くそ〜っ!いつもは滅多に戸締まりなんてしてないのに・・



残る期待は、板ばりの部屋の窓。

4つん這いの姿勢で左側に少しずつ移動していく時、

フッと見慣れた大きな通りが視界に入った。



   1階の屋根の上から駅前広場に通じてる大きな通りがよく見える、

   という事は逆からも同じって事である、

   深夜でも通りを歩いてる人は少なくなかった。

   

その事で少々焦りを感じ、さっきよりもっと身を屈ませて移動した。

期待通り、板張りの部屋の窓はガラガラと開いた!



       やったー! 



そう思った瞬間、背後から女性の悲鳴が聞こえた



“キャー!ちょっとちょっと、ナニあれ、見て〜!”

 

その言葉がハッキリ聞き取れた自分は背後に嫌〜な予感を感じながら

・・おそるおそる振り向いた・・



嫌な予感は的中していて、悲鳴の主は間違い無く自分を指さしていた。

おまけに、その女の連れらしき人が5.6人程、その女性の周りにいて、

連れじゃない何人かの通行人も悲鳴につられたのか、

こっちに視線を向けているのが振り向いた自分の視界に全部入った。



       ゲっ!



私は急いで窓を全開にした

右手で右の靴を部屋に放り投げ、左手で左の靴を放り投げ、

窓枠に上半身を上げるのと同時に右足を掛けて部屋に飛び込んだ。

そして慌てて電気を点けて、その窓から、見ている人達に向かい、

「違います!何でもありません!」という口パクとジェスチャーをして窓を閉めた。



私は投げ入れた靴を拾い、畳の部屋の電気も点けた。



       ドキドキ ドキドキ ドキドキ ドキドキ・・・



5分程してから、そっと窓を開けて通りを見た。そしたらもう誰もいなかった。

でもそれでも私はドキドキしていた。

この「ドキドキ」は他人に変なところを見られた恥かしさもあったけど、もうひとつあった。
中学生の時、自宅の1階の自分の部屋に窓から入った事があった、
その時は別に玄関から入れない事情も何もなく、単に玄関から入るのが面倒だと思っただけであった。
でもそれを後で知った母親にこう言われた、
“ 一度そうやって侵入した場所は、
いずれ泥棒が同じ様に同じ所から侵入するって言い伝えがあるんだよ!”
と。
私はこの時の言葉を思い出してしまって、ドキドキが止まらなかったんだろうと思います。

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